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il azzurri(イル・アズーリ)のロゴ
  • 2021.10.10

journal|トンボロに想いを馳せて

若い頃は(といってもまだまだ若いつもりではいるけど)、旅先を決める基準はその土地にどれだけ見どころが詰まっているか、つまり、どれだけコストパフォーマンスのいい旅ができるか、だった。だけど、年齢とともにそれほどあちこち出かけずともホテルの部屋やラウンジでゆっくり過ごせれば十分だと思うようになった。

予定を詰め込みすぎるのは疲れるからというのも正直なところだけど、それよりもラウンジで飲むワインの味もわかるようになったし、ホテルのスタッフの方との会話も楽しめるようになったから、というのもある。

それと、いろんな場所への旅を経て、すぐ目の前に見えているものを深く知るのも旅の醍醐味だと思うようになった。見えている景色がどこか懐かしいと感じる理由や、かつて旅した場所との共通点を見つけると、また新たな好奇心に繋がって、日常に帰ってからも調べる楽しみができる。

今どきスマホで検索すればたいていの情報は出てきそうなものだけど、ローカルな情報となると意外に出てこないもので、まだまだ人に聞いたり図書館で調べたりと足で稼ぐ必要があるようで、それがなんだか嬉しい。

お部屋でドリンクのイメージ

il azzurriのラウンジや客室の目の前に鎮座する「三四郎島」は、正面から見るとひとつの島のようにも見えるけど、実は4つの島の集合だ。ホテルに近い手前から「伝兵衛島」「中ノ島」「沖ノ瀬島」「高島」という名前がついている。

「三四郎島」の名前の由来は、角度によって3つにも4つにも見えるからというのが一般的だが、その古めかしい名前からしていかにも古い言い伝えがありそうで、実際、源平合戦の時代に「三四郎」という名の平家の若武者と地元の娘の悲恋の物語も伝えられている。

その三四郎島のひとつ「伝兵衛島」と、半島側の陸地の間には「トンボロ」が伸びる。トンボロとは、陸から海に流れ込んだ砂礫が海中の障害物に当たって堆積して陸地ができる現象のこと。陸地と伝兵衛島の間は200mほどあるが、海の満ち引き次第で足を濡らさずに伝兵衛島に渡ることができる。ただし常に現れているわけではなく、1年のうちでも2月頃〜10月頃まで、1日のうちでも数時間だけなので、そんな儚さや危うさが人々の想像力を呼び起こし悲恋の物語を紡ぎ出したのかもしれない。

実際に近くまで行ってみると、三四郎島で割れた海が両サイドから押し寄せて、毎日少しずつ砂礫を運んできているのがよくわかる。つまり、このトンボロは毎日少しずつ陸地の期間が長くなっていずれ立派な陸地になるのだ。もちろん何万年も先のことだけど。

今トンボロ現象が見られる土地は、日本全国に西伊豆町を含めて数カ所だが、過去を遡ればトンボロを元にできあがった土地はいくつかあって、代表的なところだと北海道の函館山と陸地に繋がる地形がそうらしい。函館は親戚がいて小さい頃に何度も出たかけた土地。夜景で有名な函館の町そのものがトンボロ現象の産物だと知って、一体どれくらいの年月であそこまでの土地が出来上がるのかと、苦手だった地理にも興味が湧いてくる。

参考:トンボロが見える時間を調べるならこちら(西伊豆町観光係)
https://www.town.nishiizu.shizuoka.jp/kakuka/kankou/kankou/tombolo.html

ところで「トンボロ」というなんとも可愛いワードはイタリア語らしい。Tomboloと書く。なぜイタリア語?トンボロ現象が特にイタリアに多いというわけでもないようだし、地質にまつわる用語にイタリア語が多いわけでもなさそうな…。これについては、私の検索力では答えが見つかりそうも無かったので、いつか地質学に詳しい人に出会えたら聞いてみよう。

il azzurriのラウンジに座って、トンボロを楽しそうに渡ったり写真を撮ったりしている人たちを見ながら、そこまで想いを馳せることができるのだから、これはもう私としては十分「コスパのいい旅」になったのかもしれない。

ライター 五十嵐友美
1980年生まれ。全国を旅しながら、ホテル、旅、観光のことを書いています。

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