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  • 2021.09.28

journal|知られざる伊豆の西側、夕陽の町へ行く

「西伊豆」と言われて、「あぁ伊豆半島のあのへんね」と具体的に思い浮かべられる人はどのくらいいるのだろう。

「伊豆」といえば、箱根などと並ぶお馴染みの観光地で、関東近郊出身の人なら家族旅行や社員旅行で訪れたことも一度や二度ではないかもしれない。でも、あえて「西伊豆」と言われると、じゃあこれまで行ったことのあるあそこやあそこはどこだったのだろう?と思う。

あらためて地図を見てみると、なるほど、伊豆のなかでも伊東とか熱海のような馴染みのある地名はほぼ伊豆半島の東側に位置している。わざわざ「東伊豆」とは言われないところを考えると、もはや一般的な伊豆は東側のこのあたりを指すことで定着してしまっているのだ。とはいえ、勝手に知った気になっていた「伊豆」は、どうやら伊豆半島の半分だけということで、それでは何だか勿体ない。知られざる天城峠を超えた向こう側には一体何があるのか。

 

 

そもそも伊豆半島の地形はかなり複雑だ。地質の詳しいことはジオパークなどの情報を参照してもらうとして、地形の複雑さはさまざまな魅力を産む。海の幸はもちろんのこと、山の幸、美味しい水。そして忘れてはならない温泉。それらの多彩な魅力こそ、伊豆が押しも押されもせぬ観光地である理由だろう。

ただ、比較的昔から公共交通機関があった東側に比べて(これも地図を確認するととんでもなく難所にレールを敷いたことがわかるけれど)、交通手段が限られる西伊豆はその分だけ、悪く言えば「取り残された」、良く言えば「知る人ぞ知る」場所になっている。

東京方面から西伊豆に向かうには、新東名自動車道から伊豆縦貫道、伊豆中央道を経由して国道に降りる。有料道路が充実したおかげで今は3時間程度の道のりだ。舗装されたばかりで快適な高速道路を運転しながら左右にチラチラと覗くパノラマを横目に、いつもとは違う場所にやってきたという気持ちが高まってくる。

国道に降りると、やや蛇行のある山道を抜ける。先ほどまでの開けた道とは違って、ほんの少し暗くて高低差の激しい道を走っていると、伊豆半島がいかに複雑な地形かを体感できる。運転が苦手な人にとってはやや不安を覚えるかもしれないけれど、この時間が非日常への通過儀礼のようにも感じられて悪い気はしない。

西側の海岸線までたどり着くと一気に空気が明るく華やぐ。あとはリアス式海外の合間から見える碧い海に心躍らせながら国道136号線を南下し、ホテルまでのドライブを楽しむだけだ。休憩がてら「恋人岬」や「黄金崎」に立ち寄ってもいいだろう。青い海と青い空に疲れた体を休めつつ、リトリートのはじまりを実感する。

到着までの道のりでも十分に絶景を楽しめるけれど、西伊豆といえば、駿河湾に沈む夕陽こそが圧倒的な見どころだろう。こればかりは東伊豆では逆立ちしても見ることができない。それも、一直線の地平線にまっすぐ沈んでいく静かなる夕陽ではない。柱状節理がそびえ立つ岩肌のあちこちに閃光をぶつけながら沈む「動的な」夕陽である。

実は西伊豆エリアで夕陽を見ようと思っても、海岸線が入り組んでいるのでどこでも見られるわけではない。さきほどの恋人岬や黄金崎といった夕陽スポットに移動するのもいいし、海岸線ドライブを楽しみながら岩陰から覗く夕陽を見つけるのもいいかもしれない。

でも旅慣れたオトナなら、ホテルのラウンジやテラスからシャンパングラス片手に気取ってみるのも(気恥ずかしささえ無ければ)贅沢で何にも変えがたい。il azzurriならフリーフローでお酒が飲めるだけでなく、客室の露天風呂から眺めることもできてしまう。運転で少し疲れた身体と日常から開放されたハイな心に、アルコールを入れながらオレンジ色に染まる夕陽を眺めていたら、柄にもなくテンションが高まってくる。1日の役割を終えて海に落ちていく夕陽は、なぜあんなにも力強いのだろう。それもほんの少しの雲の位置や入射角度の違いで刻々と色や表情を変えるし、1日として同じ夕陽はない。

もしかすると、このエリアの魅力は“捉えどころの無さ“なのかもしれない。

絶対的な観光スポットがあるわけでは無い一方で、最大の特徴の夕陽とて、毎日必ず見えるわけではない。雲の隙間からわずかに光が覗くだけの日もあるし、雲に覆われて何も見えずじまいの日もある。複雑な地形のせいで、ほんの数メートル場所を動くだけで、ほんの数日季節がズレるだけで、以前見たあの景色に再び出会うのはなかなか難しい。その上、豊富な食材は時期によって旬を迎えるものが頻繁に変わる。「これさえできれば」「これさえ見れば」という満足が無いからこそ、何度でも足を運ばなければならない気がしてくる。

だとすると、これはちょっと時間をかけて丁寧に旅をしないと西伊豆を知ったことにはならないぞと、少々身震いがした、ある日の夕暮れでした。

ライター 五十嵐友美
1980年生まれ。全国を旅しながら、ホテル、旅、観光のことを書いています。

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